チョンセ(전세)保証金返還訴訟 A to Z - 支払命令から強制執行まで
Complete Guide to Jeonse Deposit Refund Lawsuit in Korea
序論:チョンセ詐欺・チョンセ大乱時代における保証金返還の現実
2022年から本格化したチョンセ詐欺事態と逆転セ(역전세)難、そして2025年を経て深刻化したチョンセ大乱は、数多くの賃借人を保証金未返還の危機に追い込んでいます。国土交通部とHUG(住宅都市保証公社/주택도시보증공사)の統計によれば、2025年の一年間だけでチョンセ保証金返還保証事故額は4兆ウォンを超え、2026年上半期に入ってもその勢いは衰えていません。
契約満了が到来したにもかかわらず、賃貸人が「次の入居者が見つかったら返せる」「資金がない」と言い訳して保証金返還を先延ばしにする事例が日常化しています。引っ越さなければならないのに保証金が拘束されて新居を探せなかったり、ローン利息だけが雪だるま式に膨らんだりといった被害が続出しています。こうした状況下では、賃借人はもはや「善意の待機」だけでは自身の権利を守れません。
本稿では、チョンセ保証金返還のための法的手続きを段階別に体系立てて整理します。賃借権登記命令(임차권등기명령)の申請から内容証明、支払命令、本案訴訟、そして最終段階である強制執行まで、実務で実際に活用できるA to Zガイドをお届けします。各段階における2026年現行基準の費用と所要期間、そしてHUG保証保険の活用方法まで包括的に取り上げます。
1. 保証金返還請求前の準備段階
訴訟に先立って必ず整えておくべき事前準備があります。この段階を省略したり疎かにしたりすると、対抗力と優先弁済権を喪失し、法的に不利な立場に置かれる可能性があります。
1.1 契約終了6ヶ月前の通知
住宅賃貸借保護法(주택임대차보호법)第6条により、賃借人は賃貸借期間が終了する6ヶ月前から2ヶ月前までの間に、賃貸人へ更新拒絶の意思を明確に通知しなければなりません。この期間を逃すと「黙示の更新」が発生し、同一条件で2年間が自動延長されます。
- 通知時点:契約満了6ヶ月~2ヶ月前(2023年12月の法改正により、従来の6~1ヶ月から拡大)
- 通知方法:SMS、KakaoTalk、メールも可能ですが、内容証明郵便が最も確実な証拠となります
- 必須文言:「契約更新を拒絶し、満了日に保証金全額の返還を要請します」と明記する必要があります
- 証拠保存:発送領収書、受信確認書、返信のスクリーンショットなどはすべて別フォルダに保管しましょう
1.2 賃借権登記命令(임차권등기명령)の申請(対抗力の維持)
契約が終了しても保証金を返してもらえない状態で引っ越さざるを得ない場合には、必ず「賃借権登記命令」を申請し、登記簿謄本に記載されたことを確認してから引っ越す必要があります。これがなければ、転出と同時に対抗力と優先弁済権を両方とも失ってしまいます。
- 申請裁判所:賃貸住宅所在地を管轄する地方裁判所または支院
- 必要書類:賃貸借契約書の写し、住民登録謄本、賃貸人の住所を疎明する資料、建物登記事項証明書
- 所要期間:申請後、通常2~4週間以内に決定(登記簿への登載まで含む)
- 費用:印紙代・登録免許税・送達料を含めて約5~10万ウォン程度(登記費用は別途)
- 注意事項:登記完了前に引っ越すと対抗力が消滅します。必ず登記簿謄本で「住宅賃借権」の記載を確認してから転出してください
1.3 内容証明の発送
内容証明郵便はそれ自体に法的強制力はありませんが、今後の訴訟において「賃借人が保証金返還を公式に請求した」ことの強力な証拠となります。また、賃貸人に心理的圧迫を与え、自発的弁済を促す効果もあります。
- 記載内容:契約の概要、満了日、返還請求金額、返還期限(通常14日以内)、不履行時の法的措置の予告
- 発送方法:郵便局窓口またはインターネット郵便局(e-Post)で電子内容証明の発送が可能
- 費用:3枚基準で約5,000~7,000ウォン(書留郵便料金を含む)
- 保管:発送した内容証明の原本1部は必ず本人が所持してください
2. 支払命令(지급명령)の申請(簡易手続)
支払命令は本案訴訟を経ずに債権者が債権回収を図ることができる簡易手続です。保証金返還のように金額と債権関係が明白な場合には、最初に検討すべき効率的な手段です。
2.1 申請方法と必要書類
支払命令は電子訴訟システム(ecfs.scourt.go.kr)を通じて非対面でも申請できるため、アクセス性が非常に高い手続です。
- 管轄裁判所:債務者(賃貸人)の住所地を管轄する地方裁判所
- 必要書類:支払命令申請書、賃貸借契約書の写し、内容証明の写し、賃借権登記命令決定書、住民登録謄本、不動産登記事項証明書
- 作成要領:請求の趣旨に「元金+遅延損害金(年5%、商法上債務者が商人であれば6%、訴提起以降は12%)」を明示
- 電子訴訟のメリット:裁判所に出向かずに申請可、印紙代10%割引、進行状況をリアルタイムで確認可能
2.2 印紙代・送達料(2026年基準)
支払命令は本案訴訟に比べて印紙代が1/10ほどと非常に安価です。2026年基準の費用は以下のとおりです。
- 印紙代(支払命令):訴額×1/10程度。例えば保証金1億ウォンの場合、約4万5,500ウォン(電子訴訟の10%割引適用時は約4万ウォン)
- 送達料:当事者1人当たり6回分×5,200ウォン=31,200ウォン(2026年基準)
- 本案移行時の追加印紙代:支払命令印紙代の9倍を追加で納付する必要があり、結果として通常の訴額印紙代と同額になります
- 例示(保証金1億ウォン):支払命令段階で約7万ウォン → 異議申立て時に本案印紙代として約40万ウォンを追加
2.3 異議申立て時の本案訴訟への移行
支払命令の決定書が賃貸人に送達された後、2週間以内に賃貸人が異議申立てを行うと、事件は自動的に本案訴訟(保証金返還請求の訴)へと移行します。
- 異議申立期間:送達日から14日以内
- 異議がない場合:支払命令が確定し、判決と同一の執行権原となります(この時点から強制執行が可能)
- 異議がある場合:自動的に本案訴訟へ移管され、賃借人は追加印紙代を納付したうえで訴状を補完して進めます
- 実務ヒント:賃貸人が行方をくらまして送達が不可能な場合、公示送達へと切り替わりますが、この場合でも確定まで3~4ヶ月以上を要することがあるため、初期の段階で本案訴訟を直接提起する戦略も検討すべきです
3. 保証金返還請求の本案訴訟
支払命令に対して異議申立てが受理された場合、または最初から本案訴訟を選択する場合は、正式な民事訴訟手続として進行します。本案訴訟は時間と費用がより多くかかりますが、証拠調べや弁論を通じて確定判決を得られるため、最も確実な方法です。
3.1 訴状の作成要領
訴状には請求の趣旨と請求原因を明確に記載し、証拠目録と立証方法を併せて提出する必要があります。
- 請求の趣旨:「被告は原告に対し、金○○○ウォンおよびこれに対する○年○月○日から完済日まで年12%の割合による金員を支払え」
- 請求原因:賃貸借契約の締結、期間の満了、保証金返還義務の発生、返還請求および不履行の事実を時系列で記述
- 添付証拠:賃貸借契約書、内容証明、登記簿謄本、賃借権登記命令決定書、SMS/KakaoTalkの会話記録、口座送金内訳
- 遅延利息請求:訴提起日以降から年12%(訴訟促進等に関する特例法)を適用
- 弁護士選任:保証金の規模が大きい場合や、チョンセ詐欺の疑いを伴う場合には、専門弁護士の選任を推奨します。おおよそ着手金300~500万ウォン、成功報酬10~20%程度です
3.2 平均所要期間(6ヶ月~1年)
本案訴訟の所要期間は事件の複雑さや裁判所の業務負荷によって変わりますが、2026年基準での平均的なスケジュールは以下のとおりです。
- 訴状受理 ~ 被告答弁書の提出:約1~2ヶ月
- 第1回弁論期日:訴状受理後2~3ヶ月時点
- 追加弁論・証拠調べ:2~3回実施、期日の間隔は1~2ヶ月
- 宣告期日:弁論終結後2~4週間
- 全体平均:単純な事件で6ヶ月、複雑な事件(賃貸人の争い、公示送達が必要など)では1年以上
- 控訴時:追加で6ヶ月~1年、大法院上告まで進むと2年以上になる場合もあります
3.3 勝訴率と執行可能性
賃借権登記、内容証明、契約書など証拠が十分に揃った保証金返還訴訟の第一審勝訴率は90%を超え、非常に高い水準です。しかし「勝訴」と「実際の回収」は別問題です。
- 勝訴率:第一審基準で約92%(ソウル中央地方裁判所2024~2025年の統計基準)
- 実際の回収率:約55~65%程度。賃貸人の財産不足・故意の隠匿時には回収が困難
- 回収失敗の主な原因:(1) 賃貸人の無資力・破産、(2) 先順位の根抵当過多、(3) 競売の流札の繰り返し
- 対策:訴訟と並行して賃貸人の財産調査(金融・不動産・車両)申請および仮差押えを積極的に活用
4. 強制執行(判決後)
確定判決または確定した支払命令という執行権原を確保したら、これを基に強制執行手続に着手できます。実際に保証金を取り戻すための核心的な段階です。
4.1 不動産強制競売
賃貸人が所有する当該賃貸不動産、または他の不動産に対する強制競売は、最も直接的かつ効果的な回収手段です。
- 申請裁判所:不動産所在地を管轄する地方裁判所の競売係
- 必要書類:執行権原の正本(判決文・支払命令)、送達証明書、執行文、登記事項証明書
- 費用:登録免許税・地方教育税(請求金額の0.24%)、競売予納金約200~400万ウォン(事件規模に応じて変動)
- 配当順位:抵当権・租税債権などの先順位が優先され、賃借人は確定日付の優先弁済権の順位で配当に参加
- 所要期間:申請から配当までおおむね8~14ヶ月
- 注意:流札の際には当初鑑定価の80%、64%と順次逓減。先順位債権が過多であれば配当を受けられず消滅することもあります
4.2 預金・給与の差押え
不動産以外にも、賃貸人の預金口座、給与、事業収入など金銭債権に対しても強制執行が可能です。特に預金差押えは手続が迅速で効果も即時的です。
- 債権差押え及び取立命令:第三債務者(銀行など)に直接支払を請求できる命令。申請後約1~2週間以内に決定
- 金融調会(財産照会)の申請:全銀行の口座を裁判所を通じて照会可能。費用は1件あたり約5万ウォンで、全国銀行連合会の統合照会を利用
- 給与差押え限度:月給与300万ウォン超過分の1/2、185万ウォン(最低生計費相当額)以下は差押禁止
- 事業者売上差押え:カード売上債権・賃料収入・取引先の未収金も差押え可能
- 実務ヒント:預金は少額でも複数の銀行を同時に差し押さえるのが効果的。本人が把握している取引銀行から優先的に申請するとよいでしょう
4.3 HUGチョンセ保証金返還保証の活用
契約締結時にHUG(住宅都市保証公社)またはSGIソウル保証の「チョンセ保証金返還保証」に加入していれば、賃貸人を相手とする長期訴訟を経ずに、保証機関へ直接請求できます。これは最も迅速かつ確実な回収方法です。
- HUG履行請求の要件:契約満了後1ヶ月経過、賃借権登記命令完了、引っ越し完了(転出は必須ではない)
- 必要書類:保証書原本、賃貸借契約書、賃借権登記の登記簿、内容証明の写し、住民登録謄本
- 支給期間:履行請求の受理後約1~2ヶ月以内に保証金全額を支給
- 代位権の行使:HUGが賃借人に支給した後、賃貸人に求償権を行使。賃借人はそれ以降の手続から解放されます
- 注意:保証未加入であればこのオプションは利用不可。次回の契約からは必ず加入を推奨します(保証料は保証金の年0.115~0.154%程度)
- 2026年の改善事項:HUG加入可能な住宅価格の上限が12億ウォン(首都圏基準)に引き上げられ、電子保証書の発行により手続が簡素化されました
結論:保証金を迅速に回収するための5段階戦略
チョンセ保証金返還は感情ではなく手続きとの戦いです。賃貸人との個人的交渉に時間を費やすよりも、法的手続を早期に体系的に進めていくほうが、結果的により速く確実な回収につながります。2026年現在のチョンセ市場の状況を踏まえ、次の5段階戦略をおすすめします。
- 第1段階(満了6ヶ月前):更新拒絶の意思を内容証明で発送+HUG保証加入の有無を確認
- 第2段階(満了2ヶ月前):返還請求の第2次内容証明+賃借人の新居契約・引っ越し計画を策定
- 第3段階(満了直後):賃借権登記命令の申請(引っ越し前に必ず登記を確認)+HUG履行請求を同時進行
- 第4段階(満了後1ヶ月):HUG未加入者は支払命令申請(電子訴訟を活用)または本案訴訟を提起
- 第5段階(判決確定後):不動産強制競売・預金差押えを同時に申請、財産照会により追加の執行対象を確保
最も重要な原則は「遅滞なく、証拠を伴い、多層的に」進めることです。一人で進めるのが難しい場合は、大韓法律救助公団(局番なし132)、住宅賃貸借紛争調停委員会、HUGチョンセ被害支援センターなどの公的支援機関を積極的に活用してください。保証金は多くの賃借人にとって全財産に近い資産であり、その権利保護は法が保障する正当な請求です。